僕のなんでも手帳

おバカな僕の思うことをただただ書いていきたいと思います

短編小説:未来からのビデオレター

ピンポーン

インターホンが鳴り響く
せっかくの休日の至福の時というのに

「郵便でーす」

郵便?
足早に限界へ向かってドアを開けた

「こんにちは、こちらにサインをお願い致します」

「あぁ、はい」

小さな箱だった
送り主はわからない、名も住所も書かれていなかった

箱を開けてみると
CDか何かのディスクが入っていた

「なんだ?音楽でも入ってるのか?
プレイヤーなんてないぞ、、」

ディスクの中身が気になりどうするか考えていると、ふと、ある事を思い出した。
DVDプレイヤーでCDも再生できるのだ。
早速、DVDプレイヤーにディスクを入れて再生した
テレビも付けておかないと音が聴こえないのでテレビの電源を入れる

「よしっ、と」

テレビの画面が表示されると
画面に、女の子が映っていた

大体、小学校低学年くらいだろう

女の子は自分を映しているビデオカメラの向きを気にして位置を調節していた。

「何これ、、」

まさか、やべービデオなんじゃないか
ホラー?もしかして、持ってたら捕まるやつか?なんて考えていると

位置が定まったのか
女の子はカメラの前に立った

「これを見ていたら、お願いです。
AB町には来ないでください。」

「AB町。」

AB町は友人と旅行へ行く場所だ。
まさか、リアルタイムで旅行へ行く場所と同じ場所を言われると少し不気味にも感じる。

「絶対に、絶対に、来たらダメです。
来たら、、来たら。ぐすっ、、うぅ、、」

突然、女の子はグズり始めた

「おとぉ、、おとぉさん、、死んじゃぅから、、うぅぅ」

(え?おとぉさんが死んじゃう?)

「おとぉさんは、、う、うぅ
私はおとぉさんに会ったことは無いけど
おとぉさんには死んで欲しくないので、、行かないでぇ。。絶対、行かないでください」

(本当に送り先当たってるよな?これ、なんだよ悪戯か?)

「おとぉさんが、、もし、AB町に行かなければ。私も、居なくなるかも知れないけど。
おとぉさんがいない方が私は嫌です。
行かないでね?おとぉさん、行かないでね?」

ここで映像は終わった

暫く、放心状態で真っ暗な画面を見つめていた
「何なんだよ、なんでAB町に行くの知ってたんだ。」

友人に結婚しているやつはいないし、わざわざ悪戯で子役雇うなんてするはずない。
もし仮に悪戯だとするならば
あの女の子ら相当な女優になるだろう。

「マジなのか?」

俺は頭をフル回転させて、色々と考えた
(あの子は俺をおとぉさんと呼んでいた。
もう1つ気になるのは、「私も居なくなるかも」という言葉だ。AB町、滞在中になんらかの事故?事件?巻き込まれて。。いや、もしかするとその帰りか?)

「まさかだろ、、いやぁ、、マジか。」

こんなもの見せられて良い気分で旅行できる自信がない。
不安で一杯の中旅行するのか?いや、でも、話が本当であれば、あの女の子は居なくなるかも知れない。

「いやいやいや、だってじゃあどうやってこれを送ってきたんだよって!」

つい、声を出してツッコミながらも
やっぱりあの女の子の言うことを気にしていた。
どうやってここにビデオレターを送ってきたとかより、AB町に行かないとあの子は消えてしまうかもしれないと考えると
行かない選択をして本当に良いのかと葛藤していた。

未来から送られてきたのか?
それとも、パラレルワールド
あの、バタフライエフェクトとかっていうやつなんだろうか?

せっかくの休日は何とも奇妙な出来事で終わってしまいそうだ。




あれから数日、旅行までもう後3日だ
未だに俺は頭を悩ませている。

友人に話したところで馬鹿にされるだけだ。
いっそのこと風邪にでもかかってくれれば良いのだが、無理やり風邪をひこうとするのも違う気がする。

「はぁぁぁ。」

仕事にまで影響しかねない。
だが、本当にこれは大きな問題だ。
未来は変えられると言うが
こんな重い選択があるか?

不思議だ、未来、はたまた別の世界の我が子が無かったものとして生きるのか
それとも、受け入れるのか。

でも、受け入れてどうなる?
あの子が悲しむのは変わらないし、そもそも、本当なのかもわからないんだ。

「んーーー!行かない!
よく分からんが、我が子よ、大丈夫だ!
違う未来?世界?でお前は生まれる!」

俺は素直にあの子の言う通りにすることにしたのだった。




あれから1週間程たった
友人たちの旅行話も落ち着き始めた
特に大きな事故もなく良かった。
もし、俺が行ってたら。
そう考えたりした。

日が経つにつれ、あの女の子の事も記憶から薄れていった。



俺は昔から絵を描くのが好きだった
家から数キロ離れたところは海が広がっている。
車にスプレーとペンキいくつか乗っけて海へ向かった。
久々に絵でも描きたい。
防波堤にはグラフィティがたくさん描かれていて、俺もたまにそこに絵を描く。
グラフィティではなく、ただ普通に絵を描く
でっかい灰色のキャンパスに自由に。
あ。良い子は真似しないように。
アートとは時に理解されず、受け入れられないものなのだ。

防波堤へやってきた
この防波堤は、暗黙の了解というか
別に絵を描いても怒られないのだ
ここの近所の人が言うには警察も、黙認してるらしい

準備をして、ゆっくりとスプレーで下地を作っていく。
丁度良い時間帯だ。
少しずつ陽が落ちてきた。

夕日と海、それを眺める女性
頭にパッとイメージが浮かんできた
よし、それを描くとしよう。

スプレーとペンキを上手い具合に使って
少しずつ、イメージを形にしていく
そろそろ本当に夕陽が沈みそうだ。

「あの、、」

いきなり声をかけられてビックリしながらも振り返る

たまたまか、自分が描いた絵の女性に雰囲気が似ている女性がそこに立っていた

「あぁ、どうも」

「あ、なんか、その絵の女の人、私に似てる感じがして知ってる人かなぁって思って」

「え?あぁ、なんか、すみません
生憎、知ってる人じゃないです。
たまたまイメージしたのがこんな感じで」

「そうなんだ、なんかちょー凄いねっ」

「うん、正直、自分も驚いた」

少しロマンチックな出会いをしたその女性と俺はさっさと絵を描き上げてから夜まで話した。

連絡先を交換して別れ、週に数回は防波堤で待ち合わせて遊ぶような仲にまでなり
付き合うことになった。


それから1年過ぎた

彼女とは同棲しようかと悩んでいた。
俺もそろそろ身を固めたいと考えていた。


ピンポーン

朝からインターホンが鳴り響く。
せっかくの休日、ダラダラと眠っていたかったのに。

「郵便でーす。」

「はーい。」

玄関へ向かいドアを開けた。

「おはようございます。すみません。こちらにサインを」

「あぁ、郵便。」


小さな箱だ。
箱を丁寧に開けた
CDが入ってる。

「CD?あっ」

あの時の出来事が一気に蘇ってきた。

「こ、、これはもしかして!」

すぐにDVDプレイヤーにディスクを入れて再生した。

映し出されたのは
あの時の女の子だった。

「おとぉさん、ありがとう!
おかぁさんも、ありがとう!」

「生きてた、、生きてたんだ、、」

嬉しさか罪悪感から開放された気持ちや、様々な感情が溢れて涙が出てきた。

子供の後ろの方から声が聞こえた

「おい、おい、誰に言ってるんだ〜!お父さんはこっちだぞ〜?ははは」

「俺の声だ。やっ、やっぱり。うぅ」

ピンポーン

インターホンが鳴り響く

そうだ、今日は彼女が家へ遊びに来るんだった。

「入るよー?」

「あ、うん、開いてるから入って!」

俺は慌てて、涙を拭いたが、ボロボロ泣いていたので意味がなかったようだ。

「どうしたの?なんで泣いてるの?」

俺は彼女に、あの出来事を話した。
彼女は涙を流していた。

「あ、あのね、私にも、、届いたんだよ。
この子から」

俺らは抱き合ってわんわん泣きじゃくった。

不思議なものだ。
彼女から話を聞いたところ
彼女の元にも俺と同じように
この女の子からビデオレターが届いたらしい

内容は

「おかぁさん。おとぉさんがいなくなってね。毎日泣いてるの。
でもおとぉさんがいなくならなかったら、私もいないかもしれないの。
でもね、2人も一緒が良いから。
だから、私は助けるの!
あのね、おとぉさん、お絵描き上手で海でお絵描きするのが好きなの、おとぉさんはね、CD町に住んでる人なの。おかぁさんはね、昔、お父さんに描いてもらったこの絵が好きなんだって」

女の子が1枚の写真をカメラに向かって見せた

場所は違うが、その絵はあの防波堤に描いていた絵とそっくりだったらしい。

それから俺らは結婚した。

きっと未来からのビデオレターに映っていた
あの子がこれから俺らの元へやってくるのだ。
その時にちゃんと言ってやらなきゃな。

「やっと、会えたね。ありがとう。」