僕のなんでも手帳

おバカな僕の思うことをただただ書いていきたいと思います

短編小説:お爺さんとコイン

いつもと変わらぬ朝
小鳥の囀り
いつもと同じように
スマートフォンのアラートが部屋に鳴り響く

夢なんて覚えてない
最近、まともに夢を見た試しが無い
寝ぼけまなこでアラートを止め
仕事へと向かう支度をしながら
テレビを付けた

「今日、とーってもラッキーな星座は~!
天秤座のあなたでーす!
ラッキーアイテムはハンカチ!色はグリーンだと更に良い事、ありそー!」

私は占いを信じるタイプだ
今日はラッキーらしい
ハンカチはあいにくグリーンではないが
そもそもラッキーなのだから大丈夫だ

毎日、占いを見て、さっと家を出る
最寄り駅までは10分くらい
歩いていつも駅へと向う
途中、パン屋で大好きなクロワッサンを買う
イヤホンをして気分の上がる曲をかける
だいたい、パン屋から出て音楽を聴き始めて丁度、1曲目が終わるくらいで駅が見える。

後は電車に乗ってそれからまた歩いて10分
会社はベンチャー企業で名はそれなりに知られている。

私は管理職に就いている。
自分で言うのもなんだが、部下には慕われていると思う。

そんなこんなで、ホームまで来た
後は電車を待つだけ、そろそろ来る頃だ

その間、スマートフォンでニュースでもチェックしようとポケットに手を入れた時だった

チャリン

コインが落ちたような音が聞こえた

振り返ると、お爺さんが小銭を落としたようだ

私の足元に小銭が転がってきた
小銭を拾い、お爺さんへ渡そうと
顔を上げた時にはお爺さんの姿が無かった

「あれ、どこ行ったんだ。」

辺りを見渡したがお爺さんの姿はない
周りの人はスマートフォンに釘付けだ

仕方ない、恐らくまたこのホームでお爺さんにら会うだろうし、小銭は預かっておこう

それにしても見たことないな通貨だ。
いや、コインか?
あぁ、そうかスロット、あのお爺さん、どうやら朝からスロットをしに行くつもりだったんだな。
私はギャンブルはしないのでよくわからんがきっとそうだろう。

会社に着いてから同僚に今朝あった出来事を話した。

「なぁお前、スロットとかやるだろ?」

「あぁやるやる、爺さんわざわざ自分でコイン持ってたんだろ?見せてみろよ、そのコイン」

「あぁ、これだ」

私はコインを差し出した

同僚はコインを見るなり、私を見て大爆笑した

「はははははは!おいおい、お前、冗談だろ?」

「何がだよ?」

「いやいや、これは通貨じゃねーかよ
朝から面白いボケかますなよ。まだ頭寝てるんじゃないか?」

「え?あ、あぁ」

通貨?こんな通貨あったか?
見たことがない、確かに製造年月日のようなものが刻まれている

自分の財布の中にある通貨と見比べてみたが
さっぱりわからない。
もしかしたら、なにかの記念通貨かもしれないな、尚更、お爺さんに返さなければ

翌日、いつもと同じように起きて占いを見る
今日の運勢は可もなく不可もなくといった感じだ

今日は水曜か。
確か、クロワッサンが無い日は木曜だったな

いつもと同じように出勤途中にパン屋へ立ち寄った

「あれ、ないな
おばさん、あのークロワッサン。」

「あー、クロワッサン?いつも水曜だよークロワッサンお休みの日!」

「あれ、そうでしたっけ?勘違いして覚えてたかも」

「ははは、ちょっと疲れてるんじゃないの?」

「そうかもしれないですねぇ、ははは、今日はカレーパン貰うね」

おかしいな、木曜と記憶してる。
もしかして、おばさんがクロワッサンお休みの日を変えたのかも知れないな

いつものように音楽を聴きながら駅へ向かう

今日もお爺さんはいるだろうか

ホームへ着いてお爺さんが居ないか辺りを見渡した

「今日はいないのか」

ポケットに入れていた記念通貨を取り出そうとしたが指から通貨がすり抜けてしまった

チャリン

コインが落ちた音が響く

ふと、足元を見ると通貨

顔を上げるとお爺さんがいた

「ははは、お爺さん。そういやこの間直ぐ、いなくなっちゃったから、はい、これ」

私はお爺さんが落した記念通貨を拾い上げて差し出した

「んー?あぁ。ワシが落したやつか。すまないね」

「これ、相当、価値があるみたいですから大事にしてくださいね」

「あぁ、そうか。あんた向こうに行ってたのか」

そう言って私を見てニコッと笑う

「不思議な事があったじゃろ?」

「え?」

不思議と言えば不思議な事があったかもしれない。
お爺さんが言った「向こうに行ってた」ってのは、なるほど、そういうことか。

「なるほど、お爺さん。あなた」

「それはあんたが持っておきなさい。
私はいつでも行けるからね」

「良いんですか?」

「あぁ、行き方はわかるな?」

「はい、今の出来事でわかりました。ありがとうございます。」

私はラッキーだ。こんなことが本当にあるとは世の中、まだまだ不思議で溢れている。